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広島地方裁判所 昭和54年(行ウ)12号 判決

原告 株式会社川田鉄工所

被告 広島市

主文

一  被告は、原告に対し、金四二一万一〇〇〇円、および内金一七九万六一〇〇円に対しては昭和四九年九月五日から、内金一八〇万三六〇〇円に対しては同月二七日から、内金五九万二九〇〇円に対しては同年一二月二〇日から、内金一万八四〇〇円に対しては昭和五〇年二月二六日から各支払ずみまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が金一〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金四二一万九九〇〇円、および内金一七九万七七〇〇円に対しては昭和四九年九月五日から、内金一八〇万三六〇〇円に対しては同月二七日から、内金六一万八六〇〇円に対しては同年一二月二〇日から各支払ずみまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、広島市南区堀越と同市安芸区瀬野川町にそれぞれ事業所を有する法人である。

2  原告は、昭和四一年三月二六日から同四六年六月一六日までの間、訴外海田税務署長から、昭和三五年五月一日から同四三年四月三〇日までの八事業年度(一事業年度は当年の五月一日から翌年の四月三〇日までである。)分の各法人税について増額更正を受けた。

3  そこで、原告は、被告代表者広島市長(ただし、別表(一)記載のとおり、一部については昭和四八年三月二〇日、被告広島市に合併される前の広島県安芸郡瀬野川町長に対してである。以下、「被告(代表者広島市長)」という場合、右瀬野川町(長)を含むことがある。)に対し、地方税法(昭和五〇年法律第一八号による改正前のもの。以下、特にことわらない限り、「法」とは右改正前の地方税法を指す。)三二一条の八第三項に従つて、昭和四一年四月二五日から昭和四六年八月一三日までの間、右八事業年度の法人市(町)民税についてそれぞれ修正申告書を提出し、別表(一)記載の納付年月日、金額のとおり、追加して納付するとともに延滞金及び督促手数料をも納付した。

4  ところが訴外海田税務署長は、原告に対し、昭和四九年八月七日、前記昭和三五年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの七事業年度分につき、昭和四九年一二月三日、前記昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの一事業年度分につき、それぞれ法人税の前記増額更正を取り消した。

5  そこで原告は、被告代表者広島市長に対し、昭和四九年八月二七日、右七事業年度の法人市(町)民税について法三二一条の八の二に基づく更正の請求をした。

6  被告代表者広島市長は、昭和四九年八月二八日前記七事業年度分につき、昭和四九年一二月一七日前記一事業年度分につき、それぞれ法人市(町)民税割額の減額更正を行つたうえ、昭和四九年九月四日、昭和三五年五月一日から昭和三九年四月三〇日までの四事業年度分につき、昭和四九年九月二六日、昭和三九年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの三事業年度分につき、昭和四九年一二月一九日、昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの一事業年度分につき、それぞれ別表(二)記載のとおり、過納金及びこれに付する還付加算金(総額四五万八八〇〇円)の支出決定をした。

7(一)  しかし右の還付加算金は、次に述べるような理由により、別表(一)記載のとおり、法一七条の四第一項一号に基づき、各過納金の納付の日の翌日から還付のための各支出決定の日までの期間について計算されるべきである。

(1) 昭和四四年法律第一六号によつて新たに設けられた法一七条の四第一項各号は、過誤納金が生じた原由が地方団体側の措置に由来するか、納税者側の自主的な行為に由来するかによつて還付加算金の起算日を異ならしめた。

(2) 原告の前記2の修正申告は、法三二一条の八第三項に従つてなされたもので、自主的なものではなく、法によつて義務付けられたものである。従つて、これによつて確定した税額に係る過納金の発生については原告の責に帰すべき事由はない。

(3) 従つて、本件過納金は納税者、即ち原告の自主的な行為に由来するものではないから、法一七条の四第一項各号の前記立法趣旨に照らし、同項一号の「更正」には国の税務署長の行なう更正をも含むものと解し、又は、法三二一条の八第三項に示されるように法人税に係る更正と連動してなされるべき義務的な修正申告は実質上、被告代表者広島市長の行う更正と看做されるものと解すべきである。

(二)  仮にそうでないとしても、法一七条の四第一項四号、法施行令六条の一五第一項二号により、各過納金の納付の日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日から還付のための各支出決定の日までの期間について計算されるべきである。

何故なら、同項一号はそのかつこ書きによつて、更正の請求に基づく更正を除いているが、法二〇条の九の三による通常の更正の請求に基づく更正によつて生じた過納金については法一七条の四第一項二号が適用されること明らかである以上、右かつこ書きにいう更正の請求に基づく更正とは、法三二一条の八の二に規定された更正の請求の特例に基づく更正等を指すものと解され、従つて右の更正等があつた本件のような場合、法施行令六条の一五第一項二号が適用されることになるものと解すべきだからである。

(なお、このように解しても昭和四四年法律第一六号附則三条但書によつて、還付加算金の起算日は各過納金の納付の日の翌日である。)

8  仮にそうでないとしても、本件各過納金は、公法上の不当利得にあたるから、別表(一)記載のとおりの利息が付せられるべきである。

9  よつて、原告は、被告に対し、第一次的には、第一七条の四第一項一号又は四号、法施行令六条の一五第一項二号、昭和四四年法律第一六号附則三条但書に基づいて、本件過納金に対する各納付の日の翌日から前記各支出決定の日までに係る還付加算金合算金合計四六七万八七〇〇円(別表(一)参照)のうち、前記6記載のとおり既に支払を受けた四五万八八〇〇円(別表(二)参照)を控除した残額金四二一万九九〇〇円及び請求の趣旨記載のとおり各内金に対する各支出決定の日の翌日から各完済までの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、第二次的には、公法上の不当利得として本件過納金に対する各納付の日の翌日から前記各支出決定の日まで民法所定年五分の割合による利息合計金三二〇万五〇〇〇円(別表(一)参照)のうち、前記6記載のとおり既に支払を受けた四五万八八〇〇円を控除した残額金二七四万六二〇〇円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2各記載の事実はいずれも認める。

2  同3記載の事実については、原告が修正申告をしたのは昭和四一年四月一〇日から昭和四六年八月一六日までの間であること、また、昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの瀬野川町所在の事業所についての法人町民税のうち、一〇〇万円及びこれに対する延滞金五二万四六〇〇円の納付年月日がいずれも昭和四七年六月二六日である点を除き、その余は認める。

3  同4記載の事実はいずれも認める。

4  同5記載の事実中、原告の更正の請求が法の根拠に基づくものであるとの主張は争うが、その余は認める。

5  同6記載の事実については、被告代表者広島市長が、昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの事業年度に係る法人市民税について減額更正をしたのは、堀越事業所分については昭和四九年一二月一七日、瀬野川事業所分のうち、本税一一六万九〇二〇円及び一〇〇万円並びに延滞金五〇万九二〇〇円については同日、本税七万一四六〇円及び延滞金一万五四〇〇円については昭和五〇年二月一九日であり、右のうち昭和四九年一二月一七日に減額更正をしたものについては翌一八日に、昭和五〇年二月一九日に減額更正をしたものについては同月二五日にそれぞれ支出決定をしたものである点を除き、その余は認める。

6  同7記載の主張は争う。これに対する被告の反論は次のとおりである。

(一) 同7(一)(2)、(3)について

法人税と法人市民税とは、その課税主体、課税目的等において相違し、さらに、修正申告と更正とは同じ税額確定手続とはいつても、その主体、処分性の有無等の点において税法上全く異なる概念であるから、原告主張のような解釈はできない。法一七条の四第一項各号は、過誤納金の生じた徴収金が、地方団体側の処分により確定したか、又は納税者側の行為によつて確定したかによつて区分するもので、納税者側の申告が義務的なものであつたかどうか等を問うものではない。申告納付制度を採用している以上、申告が義務付けられることは当然である。

(二) 同7(二)について

(1) 被告代表者広島市長の減額更正は、職権に基づいてなされたものである。けだし、前記原告の更正の請求は、昭和三五年五月一日から同四二年四月三〇日までの七事業年度分の国税の増額更正が判決等によつて取り消されたことに基づくものであるから、法三二一条の八の二にいう「国の税務官署の更正を受けた」場合には該当せず、従つて原告の更正の請求は同条の更正の請求にあたらない。

(2) 仮に、原告の更正の請求が右同条の更正の請求にあたるとしても、その場合には法一七条の四第一項二号を適用すべきであるから、結論を異にしない。法施行令六条の一五第一項一号のかつこ書きに「更正の請求に基づく更正を除く。」とあるのは、確認的な意味で規定されているに過ぎない。

(3) 以上の理由により、被告は、本件の還付加算金の計算については、法一七条の四第一項四号を適用すべきものと解したうえ、本件過納金が原告の原告によつて確定した税額に係るものであるので、法施行令六条の一五第一項一号を適用して、結局本件還付加算金の超算日を被告代表者広島市長の減額更正のあつた昭和四九年八月二八日(七事業年度分)並びに同年一二月一七日及び昭和五〇年二月一九日(一事業年度分)の各翌日から起算して一月を経過する日の翌日(昭和四九年九月二九日並びに昭和五〇年一月一八日及び同年三月二〇日)としたので、それ以前の昭和四九年九月四日及び同月二六日(七事業年度分)並びに同年一二月一九日及び昭和五〇年二月二五日(一事業年度分)に被告代表者広島市長が還付のためそれぞれ支出決定をした以上、結局還付加算金は付す必要がないものと解し、ただ昭和四四年法律第一六号附則一条、三条及び右法律による改正前の地方税法一七条の四第一項により、各過納金の納付があつた日の翌日から昭和四四年四月八日(昭和四四年法律第一六号の施行日の前日)までの期間についてのみ還付加算金を付したものである。

7  同8記載の主張についても争う。

法一七条の四第一項各号は原告主張のとおり、過誤納金の発生した原由が地方団体側の措置に由来するのか、納税者側の行為に由来するのかによつて還付加算金の起算日を異ならしめたもので、そこでは当然に本件のような場合も想定したうえで規定されているものと解され、あらためて不当利得といつた概念を持ち込む余地はない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1ないし6について

1  各争点につき、次のとおり認定(判断)するほか、原告主張の本件各法人市(町)民税が過納となり、これが被告代表者広島市長より原告に対し、別表(二)のとおり還付加算金を含めて、還付されたことはすべて当事者間に争いがない。

2(一)  いずれも成立に争いがない甲第二号証の一ないし八によれば、原告が被告代表者広島市長に対し、法人市民税について修正申告をしたのは、昭和四一年四月一〇日から昭和四六年八月一三日までの間であることが認められる。

(二)  いずれも成立に争いのない甲第七号証の二〇及び二一によれば、原告が昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの事業年度の瀬野川町所在の事業所についての法人町民税のうち、一〇〇万円及びこれに対する延滞金五二万四六〇〇円を納付したのはいずれも昭和四七年六月二六日であることが認められる。

(三)  請求原因5記載の原告の更正の請求が法に基づくものか否かについては後に判断するところに譲る。

(四)  前掲甲第七号証の二〇および二一、成立に争いのない同号証の一九並びに弁論の全趣旨によると、被告代表者広島市長が昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの事業年度に係る法人市(町)民税について減額更正をしたのは、堀越事業所分については昭和四九年一二月一七日、瀬野川事業所分のうち、本税一一六万九〇二〇円及び一〇〇万円並びに延滞金五〇万九二〇〇円については同日、本税七万一四六〇円及び延滞金一万五四〇〇円については昭和五〇年二月一九日であり、右のうち昭和四九年一二月一七日に減額更正したものについては同月一八日に、昭和五〇年二月一九日に減額更正したものについては同月二五日にそれぞれ支出決定したことが認められる。

なお、以上認定については、これを覆すに足りる証拠はない。

二  ところで原告は、請求原因7において本件各過納法人市(町)民税に対する還付加算金は、法の規定に従えば別表(一)のとおり計算して還付すべきであると主張するのに対し、被告は別表(二)のとおり計算するのが正しいと反論して抗争するので、先ず右の点につき判断する。

1(一)  そもそも昭和四四年法律第一六号によつて改正された法一七条の四第一項各号及び法施行令六条の一五第一項各号が、従前の取扱(後述)を改め、過誤納金の生じた原由が地方団体側の措置に由来するのか、納税者側の自主的な行為に由来するのかによつて区別したのは、本来過誤納金が実質的には民法上の不当利得に類するものともみられるところから、その法理に即して還付加算金の計算方法を規定したものと解せられる。(但し、当該過誤納金発生について地方公共団体が善意であつたか、悪意であつたかという区分をそのまま計算方法に反映させたものではないこと後述のとおりである。)

(二)  しかして、右改正規定によれば、

〈1〉 法一七条の四第一項一号に掲げられた過納金は、地方団体の確定処分に係るものであるから、地方団体は当該過納発生につき責を負うべきものであるとして、還付加算金の起算日を右過納金の納付のあつた日の翌日とし、

〈2〉 同項二号並びに四号及び法施行令六条の一五第一項一号に掲げられた過納金はいずれも納税者の申告により確定した税額に係るものであるから、当該過納発生について納税者がその責を負うべきものであるとして、還付加算金の起算日につき、法一七条の四条一項二号の場合は、更正の請求があつた日の翌日から起算して三月を経過する日と当該更正があつた日の翌日から起算して一月を経過する日とのいずれか早い日の翌日とし、同項四号、法施行令六条の一五第一項一号の場合は、更正があつた日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日とし、

〈3〉 同項三号に掲げられた過納金は、個人の住民税及び個人の事業税については、形式的には賦課決定による税であるが、その所得税(国税)との連動性(法三二条及び七二条の一七第一項並びに住民税等の課税標準額は所得税のそれが変更されなければ原則として変更し得ないことになつていること―法三一五条等参照―)に鑑みると、実質的には納税者の所得税における申告によつて税額が確定するものと考えられるので、当該過納発生については納税者にその責を負わせるべきであるとして、還付加算金の起算日を所得税の減額更正の通知のなされた日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日とし(なお、これは申告書、又は修正申告書の提出によつて納付すべき額が確定した所得税額につき行われた更正の場合に限るもので、それ以外の場合、即ち、所得税につき決定を受けていた場合及び増額更正を受けていた場合には、そこで確定した税額は納税者の申告によつたものではなく、従つて当該過納発生の原由は国の税務官署の措置に由来する場合であり、納税者が責を負うべきではないと考えられるので、同号かつこ書きにより右税額について行われた所得税の減額更正に基因してされた住民税等に係る減額の賦課処分によつて生じた過納金について、は法一七条の四第一項一号が適用されることとなつている。)、

〈4〉 同項四号に掲げられた過誤納金、具体的には、納税者の申告により確定した税額について地方団体が更正の請求に基づくことなく自主的に行つた減額更正によつて生じた過納金、証紙徴収の税に係る過納金等及びすべての誤納金については、法施行令六条の一五第一項各号に従い、前述の同項一号の場合(〈2〉)を除く過誤納金に係る還付加算金の起算日を納付又は納入があつた日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日とした(同項二号)。

2  そこで右の見地から本件における過納金が右のいずれの場合に該当するかについて考えてみるに、

(一)  法三二一条の八第三項は、「法人は、……法人税に係る更正の通知を受けた場合においては、……当該更正……によつて納付すべき法人税額を納付すべき日までに、当該……更正後の法人税額、これを課税標準として算定した法人税割額……を記載した申告書をその法人税額の課税標準の算定期間中において有する事務所又は事業所所在地の市町村長に提出し、及びその申告した法人税割額を納付しなければならない。」旨規定し、そして右申告書の提出がなかつた場合等の市町村長による更正及び決定については法三二一条の一一に、その場合の延滞金の徴収については同条の一二第二項以降にそれぞれ規定するところである。

(二)  右によれば、国の税務官署によつて法人税額が増額更正された本件のような場合、それに基づいてなされた原告の被告に対する法人市民税額の修正申告は、その内容(当該更正後の法人税額を課税標準として算定した法人税割額の記載)においても法定されており、原告の自主的な判断を入れる余地がないこと明らかである。従つて右修正申告によつて生じた過納金について、原告には何ら責めらるべき点がないものと言わねばならない。(もつとも、原告としては、その所得額を争うため、右増額更正に対する異議申立を行い、被告に対する修正申告をしないでおくという途も選択できないことはないが、原告がかかる手段を採らず、国税の増額更正に承服したことをもつて、当該過納金の発生につき原告にその責任があるとは到底解し得ないところである。)

(三)  次に本件の場合法一七条の四第一項各号のいずれを適用すべきかについて検討してみる。

(1) 先ず、同項一号にいう「更正」とはその規定の位置、他の文言との関係等からみて、地方団体の長が行うもののみを指すと解すべきであつて、原告主張のように、国の税務官署の更正をも含むと解することはできず、また前叙のように納税者側の修正申告が義務的なものであるとしても、右の場合の更正を地方団体の長の更正と読みかえることができないことも論を俟たないところである。

なお、以上のことは、昭和五〇年法律第一八号によつて同号が改正(後述)された経過から見ても明らかである。

(2) そこで右の見地に基づき同項二号における「更正の請求に基づく更正」について、原告の被告代表者広島市長に対する更正の請求(請求原因5参照)が法三二一条の八の二にいう「更正の請求」に該当するか否かについて考えて見るに、同条は、「(法三二一条の八第三項にいう申告書等を)提出した法人は、当該申告書に係る法人税割額の計算の基礎となつた法人税の額について国の税務官署の更正を受けたことに伴い、当該申告書に係る法人税割額の課税標準となる法人税額又は法人税割額が過大となる場合には、……、市町村長に対し、当該法人税額又は法人税割額につき、第二〇条の九の三第一項の規定による更正の請求をすることができる。」と規定しているところ、本件においては、「国の税務官署の更正の取消」であるから文言上はこれに該当しないけれども、法三二一条の八の二における「国の税務官署の更正」のうち、減額の再更正と、右の(増額)更正の取消とは、いずれも従前の増額更正の効力を失なわせる点で共通すると解すべきであるから、同条にいう「更正」には「(増額)更正の取消」をも含むものと解する余地がある。

しかしながら、このことから、右のように国の税務官署の増額更正によつて確定した法人税額に係る減額更正又は当該増額更正の取消を理由とする、法人税割額の更正の請求による更正によつて発生することとなつた過納金に係る還付加算金の起算日について、法一七条の四第一項二号を適用すべきであると解するのは疑問である。

けだし、同号は前記のとおり更正の請求に基づく減額更正により生じた過納金に関する規定ではあるが、右減額更正の対象となるのが納税者の申告により確定した税額である点を把えてこれがその申告内容においても納税者の自主的なものであり、従つて当該過納について納税者にその責を負わせるべきであるという前提で還付加算金の起算日を定めていることからすると、その立法趣旨からみて本件の場合に同号を適用することは妥当ではないと思われるからである。

(3) 同項三号は、個人の住民税及び個人の事業税に関する規定であるから、本件の場合当然にこれを適用されるものでないこと勿論である。しかし、右各税と国税との連動性に対する配慮は、後述のとおり、本件の事例のような場合においては、前同様の解釈をなすべきものと思料する。

(4) そして、同項四号、法施行令六条の一五第一項一号については、(2)において述べたところと同様の理由から本件の場合に適用することは妥当ではない。

したがつて、被告が右条項を適用して本件還付加算金を計算したことは、法の適用を誤つたものと言わねばならない。

(5) そうすると、本件については、以上検討した以外の場合について規定した法一七条の四第一項四号、法施行令六条の一五第一項二号を適用して、還付加算金の起算日を納付のあつた日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日とすべきことになる。

(四)  また、このように解することが、次の諸点から考えても相当である。

(1) 第一に、昭和五〇年法律第一八号は法一七条の四第一項一号に掲げる過納金に、法三二一条の八第三項の規定による申告書(法人税に係る更正又は決定によつて納付すべき法人税額を課税標準として算定した……市町村民税の法人税割額に係るものに限る。)の提出により納付すべき額が確定した地方団体の徴収金(当該地方団体の徴収金に係る地方税に係る延滞金を含む。)に係る過納金(即ち、本件のような場合の過納金)を加えたのであるが、この改正趣旨は、本件のような場合、当該過納金の発生原由を納税者側の責に帰するのは妥当でないのでこのことを明確にし疑義をなくすためにあつたと思料されるのである。従つて昭和四四年法律第一六号により法一七条の四第一項各号が設けられた趣旨も、右立法者の意図と別異ではなかつたと解することができる。(もつとも、昭和五〇年法律第一八号の附則二条の規定がある以上、同法律による改正後の法一七条の四第一項一号を本件の場合に直接適用することはできない。しかし、解釈論としては、少なくとも、本件における還付加算金の起算日を被告代表者広島市長の更正があつた日等を基準として定めるのは妥当でないこと明らかである。)。

(2) 第二に、法一七条の四第一項三号との権衡である。同号は、個人の住民税及び事業税に関する規定であるが、そこでは、かつこ書きにおいて、地方税における過納につき、国の税務官署がその責を負うべきものと考えられる場合には、同項一号を適用すべきものとしていることは前叙のとおりである。そのことは個人と法人とで徴税等に関し差等を認めるべき合理的な理由がない限り、法人の場合にも同様に解するのが相当と思料される。

そこで右合理的理由の存否につき検討するに、法人税割又は法人事業税はあくまで申告納付を建前とし、従つて納税者の側から更正の請求ができる等の方法があることが個人の場合についてのみ同項三号を設けた理由とされている(右事実は原本の存在及び成立に争いのない乙第四号証の二によつて認められる。)が、そのことから同号のかつこ書きによる除外の趣旨が法人の場合には排除されねばならないとの合理的な理由は見出せないところである。

(3) 第三に、仮に法三二一条の八第三項所定の申告を怠つた場合、同条の一一第一項によつて、市町村長が職権で増額の更正をすることになるのであるが、その場合、右更正によつて納付すべき額が確定した地方団体の徴収金に係る過納金が発生すると、これには法一七条の四第一項一号が適用され、当該過納金の納付のあつた日の翌日が還付加算金の起算日となつて、結局、法律に定めた申告納付を怠つた納税者は当該過納金の納付のあつた日の翌日から、延滞金を含めた過納金について還付加算金を付してもらえることになる。そうすると、本件の場合、被告が主張するように、還付加算金の起算日を被告代表者広島市長による減額更正のあつた日を基準とすると、原告は法に忠実に従つたがために却つて不利益を蒙むる結果となるのである。かかる課税上の不公平は到底容認できないところである。

3  そこで、以上の説示に基づき、本件の場合被告が原告に還付すべき還付加算金の額を計算すると昭和四四年法律第一六号附則三条は、「新法第一七条の四の規定は、施行日以後に還付のため支出を決定し、又は充当する過誤納金に加算すべき金額について適用する。ただし、当該加算すべき金額の全部又は一部で同日前の期間に対応するものの計算についてはなお従前の例による。」と規定しているので、右但書により、昭和四四年法律第一六号による改正前の地方税法が還付加算金の起算日について過誤納金の生じた理由の如何を問わず一律に納付又は納入の日の翌日としていたところから、結局本件還付加算金の計算は別表(三)のとおり合計四六七万三二〇〇円となり、これから原告において既に還付を受けた四五万八八〇〇円を控除すると、右額は、四二一万四四〇〇円となり、原告の第一次的請求額より若干下まわるもののこれとほぼ一致する(一部、一致しない点は、原告の計算方法の誤り等に起因するものである。)ことになる。

また別表(三)によると、昭和四九年九月四日に支出決定のあつた各事業年度における還付加算金の合計額は二一八万九二〇〇円、同月二六日支出決定のあつた各事業年度におけるそれの合計額は一八七万二七〇〇円、同年一二月一八日支出決定のあつた事業年度におけるそれの合計額は五九万二九〇〇円、昭和五〇年二月二五日支出決定のあつた事業年度におけるそれの合計額は一万八四〇〇円となる。

三  結論

以上の理由により、原告の本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく、各主張事業年度についての還付加算金の支払を求める部分は当裁判所の計算した額を超えない限度で、またそれに対する附帯請求の部分についても同様の限度で、それぞれ理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言及びその免脱の宣言につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一九六条一項、三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 植杉豊 大谷禎男 橋本良成)

別表(一)~(三)〈省略〉

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